Jetエンジン製作記 18万回転への兆戦 !
                                                 


5、 耐熱性の問題

燃焼温度は燃焼器内の1次燃焼領域においては1600度C以上の温度になり2次燃焼領域では燃焼室への導入空気量を増やす事(空燃比60:1以上)により冷却され燃焼器の出口では700度C〜900度C程になります。

燃焼室の推定温度



上記の事から、エンジンを製作する為の材料については一部耐熱性・耐蝕性・耐クリープ性など高温特性に優れている材質が要求されます。

耐熱が要求される部品

部 品 名 実用エンジンの材質(参考)
燃焼器 HastelloyX(Ni基、耐熱温度1100度C)、Haynes188(Co基、耐熱温度1250度C)
インコネル60系、70系(ニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金、耐熱温度900度C)
NGV ニッケルを主体の超耐熱合金(耐熱温度900度C〜950度C)、鋳造品や鍛造品から仕上げられる。
インコネル718(ニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金、耐熱温度900度C)
タ−ビンロ−タ− ニッケルを主体の超耐熱合金(耐熱温度900度C〜950度C)、鋳造品や鍛造品から仕上げられる。
インコネル718(ニッケルをベースとし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデン等の合金、耐熱温度900度C)
エキゾ−ストノズル コバルトを主体の超耐熱合金、鋳造品や鍛造品から仕上げられる。
フュ−エルインジェクションチュ−ブ -
シャフト -
シャフトナット -
エンジンケ−ス -
エンジンリヤ−側ボルト類 -

燃焼器より排出される高温の燃焼ガスからタ-ビンを保護する為に燃焼器内へ多量の2次空気を導入し燃焼器出口付近の温度を下げます、実用エンジンではタ−ビンブレ−ドを高圧空気の膜で覆い高熱が直接伝わらない構造でも対応しています。
個人が上記の耐熱材料を簡単に入手する事は不可能に近いと思います、例え入手できても加工が困難だと思われます。
一般的に入手が可能な耐熱材料としてはステンレス系になると思いますが、耐熱温度、機械的強度は下がります。


6、 高速回転に伴う遠心力と強度の問題

模型JETエンジンの小型化に伴いコンプレッサ−ロ−タ−の効率を考えると最低でも15万回転以上の回転が必要と思われますが回転を高める事により遠心力が増大します
コンプレッサ−ブレ−ド・タ−ビンブレ−ドの強度を無視する事はできません。
タ-ビンブレ−ドの遠心力を計算
例 タ−ビン直径44mmの場合
ブレ−ド1枚の重さ0.44グラム(厚み1mm×高さ7mm×幅8mm×
ステンレス鋼の
密度
7.93) 質量中心が半径19mmとして下記の遠心力計算式に代入

shiki_824_04.gif (1009 バイト) F = 遠心力(N)
m=偏芯質量(kg)
r = 偏芯距離(m)
f = 振動数(Hz)


1N=0.10197kg
(一般式)
shiki_824_03.gif (1435 バイト)
(計算式)
回転数(rpm) 遠心力 ブレ−ド先端周速度 
1万回転 0.9kg 83km/h
5万回転 23kg  414km/h
10万回転 93kg  829km/h
15万回転 210kg  1243km/h
18万回転 303kg  1492km/h


計算結果より、18万回転時には0.44グラムのブレ−ドが約69万倍の303kgの重さに相当する力になります。
タ−ビンロ-タ−の材質選定については耐熱性を含め機械的強度の高い材質が要求されます身近で手に入りやすいステンレス鋼304で強度計算をしてみます。

タ-ビンブレ−ドの強度を計算

タ−ビンの材質JISステンレス鋼304(材料の性質は下記の表を参照)
     例 タ−ビン直径44mmの場合
     タ−ビンブレ−ド1枚根元 断面積 7.5
mm2として計算
常温時の強度
610N/mm2×7.5mm2= 4575N 4575N×0.10197kg= 467kg

高温時の強度(850度C)
85N/mm2×7.5mm2= 638N 638N×0.10197kg= 65kg

JISステンレス鋼304の性質
引張強さ
(常温
)
引張強さ
(850度C)
耐熱温度 融点 密度
610N/mm2 85N/mm2 (700度C) 1480度C 7.93

常温時は18万回転でも計算上は耐えられる事になりますが、850度の高温には耐えられません、一般的なステンレス鋼は500度C〜600度C程より急激に引張強さが低下します
上記はステンレス鋼304での計算結果ですがステンレス鋼の中にはまだ高温強度の高
いSUS310系の高級耐熱鋼も有ります。
本来ならば高温強度の優れた超合金材が必要です。
簡単に入手可能な材料としてステンレス材を使うならば効率低下にはなりますが

タ-ビンブレ−ドのブレ−ド厚を増やし強度を高める
燃焼器の2次空気導入量を増やし燃焼器出口の燃焼ガス温度を極力下げる

具体的にはタ-ビンブレ−ド直後の排出ガス温度を500度C〜550度Cと低めの設定にする事がポイントになりそうです